イタリア国歌のレコード
ヌヴォラーリがゴールラインを切ったとき、放心したような深い沈黙が彼を迎えました。
ドイツ人観客は、あまりといえばあまりの逆転劇に自らの目を疑いました。
拍手どころではなかったのです。
困惑したのは観客だけではなかったのです。
レースの役員は中古車情報でも人気の高いドイツ車以外が勝つことなど考えてもいなかったので、ヌヴォラーリの表彰式のとき、スピーカーで流す国歌・・・
この場合イタリア国歌ですが、このレコードを用意してなかったのです。
しばらくスピーカーは沈黙を続けましたが、この気づまりな場を救ったのは、当のヌヴォラーリでした。
彼は縁起をかついで(レーサーには多いですよね)、いつもイタリア国歌のレコードを手提鞄の中に入れており、やおらそれを取り出すと、あわてふためく役員に差し出しました。
国歌が流れて無事に表彰式は終わりました。
それまで沈黙していた大観衆も、夢から醒めたようにこの小男のイタリア人に拍手を送り、祝福の歓声をあげました。
ヌヴォラーリはドイツ人にも人気があり、信ぜられない逆転劇のヒーローは、いつの時代でも常に大衆のアイドルでした。